キミドリ色は私の作品の中では、<創造>を意味するとても重要な色です。私が幼かった頃、自分の子ども部屋のじゅうたんの色がキミドリ色で、そこでいろんなものを描いたり作ったりして遊んでいました。そこはまさに私にとっての初めての「創造の場」と呼べるものでした。その記憶が源泉となり、2001年に作品「キミドリの部屋」が誕生しました。そして、その後、そのキミドリの部屋の中に、ウサギのようなか弱さとねずみのような逞しい強さを併せ持つ私が創作した架空の生き物「ウサギねずみ」が登場し、そこで対話を繰り広げる作品「ウサギねずみの対話」が生まれました。私はこの不思議な生き物を、私たち人間の象徴として描いています。これまで私の数多くの作品の中で、ウサギねずみたちが対話を重ね生まれてきた数々のイメージは、やがて本をモチーフとした作品シリーズとなり、ひとつの結実を見ました。その私のウサギねずみたちが出した答えは、「物語に主人公がいるように、それぞれの人生においては、その人自身が人生の主人公であり、それぞれの異なる時の流れの中で、出会いや別れを繰り返し、様々な物事と関わっていきながら、一度限りの大切な人生を生きている。」ということでした。この作品シリーズは、2009年に個展として発表しましたが、幸いにも、その翌年、若手画家を顕彰するために新たに創設された絹谷幸二賞をいただくことができました。そして、この受賞がきっかけとなり、また新たな出会いが広がり、まったく異なる分野の方々との対話を通して、社会と美術の関わりを客観的に感じる経験も増えました。2011年は、これらの出会いと対話から生まれてきた新たな可能性を作品として表現していく次の10年の始まりでもあります。ウサギねずみたちも創造の部屋からより広い創造のステージへと飛び出し、新たな対話を繰り広げます。そこには、天まで伸び広がろうとする大きな木々があり、彼方にはキミドリ色の風景が広がっています。それはまさに、新たな創造と可能性の世界です。
普段の慌ただしい生活の中で、自分自身と向き合い対話することはなかなか難しいことかもしれません。しかし、何かきっかけがあれば、本当の自分がひょっこりと顔を出し、対話することができるかもしれません。また、日頃、相入れないと思っている人とでも、少し勇気を出して話してみると、意外と気が合ったりするかもしれません。さらに、親子や夫婦、恋人、友人同士といった親しい間柄の人とでも、改めてじっくり対話してみると、今まで知らなかったその人の違う一面を発見するかもしれません。そしてもちろん、今展にお越しいただいた方、お一人おひとりが私の作品と対話していただき、何かを感じていただくことができれば。
自分との対話、他者との対話、自然との対話、作品との対話、・・・。それぞれの対話から新たなストーリーが生まれる。今展がそんな素敵な対話のきっかけとなればとてもうれしいです。
大谷有花 |