Concept Note 03

<Concept Note 大谷有花・私の作品解説>では、アーティスト・大谷有花がメモリアルな自作について
語った言葉をご紹介しています。 各画像をクリックすると、作品の拡大写真と詳細がご覧いただけます。



現実と戦うモチーフである「黒豹」とは違い、キミドリの部屋に住み、創造力を
食べていく動物として「ウサギネズミ」を描きました。それまでは、立体作品と
してネズミのオブジェなどを作っていました。粘土でネズミを作り、その上から
細かく切ったキャンバスを貼り付けたものです(下の写真)。このときは、まだ、
ネズミとウサギは、合体したモチーフではありませんでした。ただ、キャンバ


スを餌にするネズミというイメージが頭の中にありました。この作品では、イメージがより濃密になり、ウサギネ
ズミというイメージの中の動物を生み出し、あとあとの「ウサギねずみの対話」シリーズの原型となりました。

ウサギは、一般的には、ペットとして飼われていて、一見、かわいらしく、弱い一面をもつ動物であり、ネズミ
は、繁殖力が旺盛で、人間に飼われなくても生きていける逞しさと、汚れたイメージとを併せ持った動物であり、
もっとも自分に近い存在として描いています。私が制作しているときの仮の姿とでもいいますか・・。ここでのウ
サギネズミは黄緑色の地が透けていて、部分的に白い色がついています。創造力を吸収して白い色から黄緑
色に同化しつつあるといった感じです。
赤い色で塗られた部分は、逆さまから見ると、おひな祭りやお誕生日、お姫様などの女の子を象徴する格好を
した不二家のイメージキャラクターのペコちゃんが描かれています。この頃から、赤色を、自分の過去の時間や
その中での体験や意識をあらわす色として使っています。その上に現在の自分が制作している仮の姿・ウサギ
ネズミが、キミドリ色を食べているといった図式です。

背景の黄緑色の上には、うっすらと文字が書かれています。ボーヴォアール 著 / 生島遼一 訳の「第二の性」
(一)からの引用です。この本は、さまざまな半生を過した女性の体験を踏まえながら、女性に見られる思考や
行動の特徴を分析した本です。この中から、私が気にとめた箇所を作品の背景に描いています。
より黄緑色の意味を強めるためと、造形的には、文字が模様のような役割も果たし、背景に空間的な広がりを
もたせるためのマチエールとして用いています。そのため、文字を逆さに書き、絵を展示している状態では落ち
ついて読むことはできません。あまりに感覚的に抜粋した断片的なものなので、読むことが出来ない方が都合
がよいと判断したのです。実際には、以下のような内容が書かれています。
「心の底では、わたしは、それが本当でないことを知っていました。
わたしは、人形で遊び、人形が生きていないことをよく知っていても、生き
ていると信じたがる子供のようでした。」
「彼女はありふれた紋切り型の詩の文句の下に、彼女をおびえさせる一つ
の世界をかくすのだ。月光やばら色の雲やビロードのような夜で雄性にぼ
かしをつける。自分の肉体を大理石の碧玉と螺旋の殿堂にする。そしてば
かげたお伽話を自分に話してきかせる。彼女は物や人の上にはっきりとし
ない魔法のひかりを投げかける。魔法の観念は受動的な力の観念であ
る。しかも力をつけたいと思うから、魔法を信じなければならぬ。男たちを自
分の束縛下にとらえる肉体の魔術や、一般に何もしないでも彼女の欲望を
満たすような運命の魔術を信じなければならない。肝心の現実の世界は、彼女は忘れようと試みるのだ。」
「彼女は情熱的なそして同時に、若い男よりも無動機なやり方で、触れ、味わう。人間世界にうまく入り込め
ず、適応しにくいが、子供のように、その世界を眺めることはできる。事物に着手することに興味をもつかわり
に、それらの持つ意味に執着する。」
「自分は何事も完成できない、自分は何ものでもないと思うことが、彼女の活動をますます情熱的にする。空
虚で限定されていない彼女がおのれの虚無のただなかで、懸命に到達しようと努めるもの、それは「全」であ
る。」

この時期、自分自身の存在について考えるうえで、現在そして過去そして女性ということを客観的にみつめる
ということが、制作の中での大半を占めていたこともあり、このような作品になりました。

この作品の色は、キャンバスの上で、黄緑色とピンク色を混ぜてでき
たものです。現実と創造の世界とが融合して混ざり合った時に、可能
性や夢やあこがれが生まれるということを意味しています。画面上の
文字は、使用した色の名前を書いています。花は、綿毛のようにふ
わふわと空中を飛んでいるイメージで、その花々は蛍のように柔らか


な光を放っています。それぞれの人がもつ可能性や夢がどんどん広がるよう舞い飛ぶ花に思いを込めました。

このページの掲載作品は、順次追加します。お楽しみに。